この記事でわかること
- ストレスチェック制度の概要と対象事業場
- 自社実施 vs 外部委託の違いと費用の目安
- 実施から結果通知・高ストレス者対応までの実際の流れ
- 集団分析の結果を職場改善につなげる方法
- 2026年に予定されている50人未満事業場への義務拡大への対応
結論
ストレスチェックの対応でまず確認すべきことは、「誰が実施者になるか」と「外部委託するかどうか」です。
実施体制が決まれば、他の手順はスケジュール管理の問題になります。形式的に実施するだけでなく、集団分析の結果を職場環境改善に活かすことが制度の趣旨です。
ストレスチェック制度の概要
ストレスチェック制度は、労働安全衛生法第66条の10に基づき、2015年12月に施行されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 義務対象 | 常時50人以上の労働者を使用する事業場 |
| 実施頻度 | 年1回 |
| 実施者 | 医師・保健師・その他厚生労働省が定める研修を修了した者 |
| 受検義務 | なし(労働者は受けることを義務づけられない) |
| 結果の通知 | 実施者(または委託機関)から本人へ直接通知。事業者には通知されない |
| 事業者への情報提供 | 本人同意がある場合のみ |
目的は「セルフケア促進」と「職場環境改善」
ストレスチェックには2つの目的があります。一つは労働者が自分のストレス状態を知るセルフケアの促進。もう一つは集団分析を通じた職場全体のストレス要因の把握と改善です。
自社実施 vs 外部委託
ストレスチェックは自社で実施することも、外部機関に委託することもできます。50人以上の多くの事業場では外部委託が主流です。
比較
| 項目 | 自社実施 | 外部委託 |
|---|---|---|
| 実施者 | 自社の産業医・保健師 | 委託機関の医師・保健師 |
| 事務作業 | 人事担当者が担う | 委託機関が担う |
| コスト | 産業医の追加稼働が必要 | 従業員1人あたり数百〜2,000円程度 |
| 手間 | 配布・回収・管理が社内業務に加わる | 実施〜集計〜通知まで委託機関が対応 |
外部委託の費用目安
| 従業員数 | 年間費用の目安 |
|---|---|
| 50〜100人 | 3〜15万円程度 |
| 100〜300人 | 10〜40万円程度 |
| 300人以上 | 別途見積もり |
上記は集計・通知・集団分析を含む標準的なプランの目安です。高ストレス者面接指導(1回あたり1〜3万円程度)は別料金になることが多いため、見積もり時に確認してください。
実施形態(紙 vs Web)
委託先・自社の環境によって選択できます。
| 形態 | 特徴 |
|---|---|
| Webシステム | URLを送信→従業員がブラウザ上で回答→自動集計。手間が少なく回収率が高い。PCを持たない現場作業員には向かない |
| 紙(マークシート) | 印刷→配布→回収→郵送→委託機関が集計。PCを使わない職場でも対応可能。事務負担が大きい |
現在はWebシステムが主流です。委託契約時に「Webと紙のどちらで実施できるか」を確認してください。
主な委託先の種類
- EAP(従業員支援プログラム)機関:ストレスチェックから高ストレス者のカウンセリングまで一括対応するサービスを持つ
- 健診機関(健診センター・クリニック):健康診断と同時実施できる場合がある
- 産業医事務所:実施者として産業医が関与し、面接指導もあわせて依頼できる
産業医事務所に委託する場合は、実施者受任と高ストレス者面接指導をまとめて依頼できます。
実施の流れ
ステップ1:実施体制の整備
実施者の選定
ストレスチェックの「実施者」は、医師・保健師等でなければなりません。
- 外部委託する場合:委託機関の医師・保健師が実施者を務めます。自社の産業医を実施者にする必要はありません
- 産業医を実施者にする場合:産業医が評価・高ストレス者の最終判定を担います。調査票の配布・回収・集計は実施事務従事者(人事担当者等)が補助できます。ただし実施者と実施事務従事者の兼任はできません
実施者は、ストレスチェックの結果評価・高ストレス者の選定を担います。
衛生委員会で実施体制を審議し、社内規程に定めることが求められています。
実施事務従事者の選定
実施の補助(アンケートの配布・回収・データ管理等)を行う担当者を選定します。人事担当者が実施事務従事者を兼ねることができます。
ステップ2:調査票の選定
調査票は実施者が選定します。厚生労働省が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が最も広く使われています。業種・事業規模に応じた簡易版(23項目)も使用可能です。
→ 調査票は厚生労働省「こころの耳」からダウンロードできます。キーワード「職業性ストレス簡易調査票」で検索してください。
ステップ3:労働者への説明と受検
労働者にストレスチェックの目的・結果の取り扱い・本人同意に関する説明を事前に行います。説明は書面(または電子)で全員に配布します。
回答は任意です。受けない労働者に対して不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
ステップ4:集計・評価・結果通知(法令上の建前と現場の実態)
法令上は「実施者が回答を集計・評価し、結果を本人に直接通知する」と定められています。実際の運用は委託・自社実施で異なります。
外部委託の場合(一般的な流れ):
- 労働者がWebシステムまたは紙で回答する
- 委託機関のシステムが自動集計・スコアリングを行う
- 委託機関が結果を労働者本人にメールまたは書面で直接通知する
- 産業医(実施者)は集計後のデータを確認し、高ストレス者の最終判定を行う
自社の産業医が実施者の場合:
- 実施事務従事者(人事担当者等)が調査票を配布・回収する
- 産業医が評価基準に基づいてスコアを確認し、高ストレス者を判定する
- 実施事務従事者が本人への結果通知の事務を担う(ただし個人の得点情報を閲覧できる範囲は制限されている)
事業者(人事等)に個人の結果が伝わることはありません。本人が同意した場合のみ、事業者への情報提供が可能です。
ステップ5:高ストレス者への対応
実施者が高ストレスと判定した労働者に対し、面接指導を受けることを案内します。
面接指導の申し出は本人の任意です。
高ストレス判定を受けたすべての労働者が面接指導を受けるわけではなく、「受けたい」と申し出た者のみが対象になります。
面接指導の申し出があった場合、事業者は1か月以内に産業医による面接指導を実施しなければなりません(労働安全衛生法第66条の10第3項)。
産業医がいない場合(50人未満等): 外部の産業医資格を持つ医師に単発で依頼することが可能です。外部委託先に面接指導対応を含めて契約するか、産業医事務所にスポット依頼する方法があります。
ステップ6:集団分析と職場改善
実施者が集団分析を行い、部署・職種・年齢層等のグループごとにストレスの傾向を分析します。
分析結果は事業者に提供され、衛生委員会で共有・審議します。高ストレスが多い部署への対応策(業務量の調整・管理職研修・環境改善等)を検討してください。
集団分析の提供は努力義務ですが、職場環境改善の根拠となる重要なデータです。
集団分析でよく見る指標と改善のヒント:
- 「量的負担」スコアが高い部署 → 業務量・人員配置の見直し
- 「上司サポート」スコアが低い部署 → 管理職研修・1on1の導入
- 「職場の一体感」スコアが低い部署 → コミュニケーション施策の検討
集団分析の結果は個人が特定されないよう、原則10人以上のグループ単位で集計・開示します。
ステップ7:記録の保存
実施記録の保存期間は5年間です(労働安全衛生規則第52条の13)。個人の結果は実施者(または委託機関)が管理します。
高ストレス者面接指導の進め方
面接指導を行う医師
面接指導は産業医が担当することが一般的です。産業医が不在または対応できない場合は、外部の産業医資格を持つ医師に依頼することも可能です(労働安全衛生規則第52条の10第2項)。
面接指導で確認すること
産業医は面接指導で以下を確認します。
- 現在のストレスの内容・程度・持続期間
- 睡眠・疲労・身体症状の有無
- 業務量・業務内容・職場の人間関係
- 通院・服薬の有無
面接指導後の就業上の措置
産業医は面接指導の結果を踏まえ、必要に応じて就業上の措置に関する意見書を事業者に提出します。
事業者は意見書の内容をもとに、時間外労働の削減・業務内容の調整・通院支援等の措置を検討します。
注意:面接指導の申し出を理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています(労働安全衛生法第66条の10第3項)。人事評価や配置転換等で不利に扱うことは違法です。
集団分析の結果の活用
集団分析の結果を衛生委員会で共有し、以下の観点で議論してください。
- 高ストレス者割合が高い部署はどこか
- 「仕事の量的負担」「職場の支援」等の指標でどの部署に課題があるか
- 対策として実施可能なことは何か(人員配置・業務の見直し・管理職研修等)
50人未満事業場への義務拡大(2026年対応)
2025年に労働安全衛生法が改正され、50人未満の事業場へのストレスチェック実施義務が拡大されることが決まりました。
何が変わるか
| 事業場規模 | 改正前 | 改正後(2026年施行予定) |
|---|---|---|
| 常時50人以上 | 実施義務あり | 変わらず |
| 常時50人未満 | 努力義務(任意) | 実施義務あり(新たに義務化) |
根拠:改正労働安全衛生法第66条の10(施行日・経過措置については厚生労働省の最新情報を要確認)
50人未満事業場が今から準備すべきこと
外部委託先の選定
50人未満事業場では外部委託が現実的な選択肢です。委託先を選ぶ際の確認ポイント:
- 実施者(医師・保健師等)が確保されているか
- Webでの実施が可能か(現場作業員が多い場合は紙対応も確認)
- 高ストレス者面接指導に対応する医師を手配できるか
- 集団分析レポートが提供されるか
- 費用(従業員1人あたりの単価)
衛生委員会がない場合の対応
50人未満の事業場には衛生委員会の設置義務がないため、従業員への事前説明と意見聴取の機会を設けることで代替します(詳細は施行後の通達を要確認)。
面接指導を行う医師の確保
50人未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、高ストレス者が面接指導を申し出た場合に対応できる医師を事前に確保しておく必要があります。外部委託先に含める形で契約するか、産業医事務所にスポット依頼する方法があります。
準備スケジュールの目安
| 時期 | 作業 |
|---|---|
| 施行前3〜4か月 | 外部委託先の情報収集・比較 |
| 施行前2か月 | 委託先の決定・契約 |
| 施行前1か月 | 社内周知・対象者の確定 |
| 施行年度中 | ストレスチェック実施(年1回) |
| 実施後 | 高ストレス者対応・集団分析・報告書提出(詳細は厚労省情報を要確認) |
施行直後は委託先が混み合う可能性があります。施行日が確定した時点で早めに情報収集を始めてください。
よくあるミス
ミス1:「やった」だけで終わらせる
集団分析を活用せず職場改善につなげない。→ 衛生委員会で結果を共有し、改善策を記録に残す
ミス2:高ストレス者全員に面接指導を強制しようとする
面接指導は本人の申し出が必要。強制すると不利益取り扱い禁止に抵触する。→ 制度の趣旨を正しく周知する
ミス3:人事が個人の結果を取得しようとする
本人同意なしに個人の結果を事業者(人事)が取得することは禁止。→ 同意書の運用を整備する
ミス4:委託先に丸投げして内容を把握していない
結果の集計・分析・活用の流れを把握していないと、問題が起きた時に対応できない。→ 委託先と実施フローを事前に確認する
FAQ
Q. パート・派遣社員にもストレスチェックが必要ですか?
常時使用する労働者全員が対象です。派遣社員については、派遣先事業場ではなく派遣元が実施義務を負います(派遣先でも実施は可能です)。パート・アルバイトは週の所定労働時間が正社員の4分の3以上かつ1年以上の継続雇用が見込まれる場合に「常時使用する労働者」に含まれることが一般的ですが、実施者に確認してください。
Q. ストレスチェックを実施しなかった場合の罰則はありますか?
50人以上の事業場が実施しない場合、所轄の労働基準監督署への報告義務違反として50万円以下の罰金が適用される場合があります(労働安全衛生法第120条)。50人未満の事業場に対する罰則規定については、施行後の通達・ガイドラインを確認する必要があります(要確認)。
Q. 面接指導の申し出をした労働者の情報を上長に共有してよいですか?
原則として共有してはいけません。面接指導の申し出・面接の内容は個人情報であり、本人同意なしに第三者(上長を含む)へ開示することは不適切です。
Q. 在宅勤務(テレワーク)の従業員もストレスチェックの対象になりますか?
対象になります。テレワーク中の従業員も「常時使用する労働者」に含まれます。Webシステムで実施すれば在宅のまま回答できるため、対象者全員が回答しやすくなります。
Q. 50人未満の事業場の義務化施行後、すぐに実施しなければなりませんか?
施行年度中に1回実施することが求められます。「施行日から数日以内」という期限ではなく、その事業年度の中で1回実施できればよい仕組みです。ただし、委託先の選定・契約・社内周知には1〜2か月程度かかります。施行日が確定した時点で早めに準備を始めてください。
Q. ストレスチェックの委託先はどうやって選べばよいですか?
確認ポイントは以下のとおりです。①実施者が医師・保健師等の資格要件を満たしているか、②集団分析の提供・面接指導の対応が含まれるか、③実施形態(Web/紙)が自社の環境に合っているか、④費用と実績。産業保健総合支援センターでも委託先に関する情報提供を行っています。
まとめ
ストレスチェックを実効性のある制度にするために、今すぐできることは次の3つです。
- 自社実施か外部委託かを決め、委託の場合は見積もりを取る(複数社比較を推奨)
- 高ストレス者が面接指導を申し出た場合の対応フロー(誰が・いつまでに・どこで)を整備する
- 集団分析の結果を衛生委員会で共有し、改善策を記録に残す仕組みをつくる
アンカー産業医事務所では、産業医としてのストレスチェック実施者受任・高ストレス者面接指導・集団分析の衛生委員会での活用支援まで対応しています。
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